開業医の真実

2025年11月
  • 突発性発疹とヘルペスウイルスの関係

    知識

    突発性発疹の原因ウイルスは「ヒトヘルペスウイルス」の一種です。この「ヘルペス」という言葉を聞くと、口唇ヘルペスや性器ヘルペス、あるいは帯状疱疹といった、少し厄介な病気を思い浮かべる方も多いかもしれません。実際、これらは全て同じヘルペスウイルス科に属する、親戚のようなウイルスたちです。この大家族の特性を理解すると、突発性発疹の謎が少し解けてきます。ヘルペスウイルス科に属するウイルスには、共通した大きな特徴があります。それは、「一度感染すると、体の中から完全にいなくなることはなく、神経節などに潜伏感染し、生涯にわたって体内に共存し続ける」という点です。例えば、口唇ヘルペスの原因となる単純ヘルペスウイルス1型は、三叉神経節に潜伏し、風邪や疲労で免疫力が落ちた時に再活性化して、唇に水ぶくれを作ります。水ぼうそうの原因となる水痘・帯状疱疹ウイルスは、知覚神経節に潜伏し、数十年後に帯状疱疹として再び姿を現します。そして、突発性発疹の原因であるヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)も、この例に漏れません。乳幼児期に初感染した後、ウイルスは主に唾液腺などに潜伏します。そして、体の免疫力が低下した時などに再活性化し、唾液中に排出されることがあるのです。大人が子供にウイルスをうつすのは、この再活性化によるものです。大人が突発性発疹として発症することは稀ですが、この再活性化が、稀に別の問題を引き起こすこともあります。例えば、臓器移植を受けた患者さんや、抗がん剤治療中の患者さんなど、免疫機能が著しく低下した状態では、潜伏していたHHV-6が再活性化して、脳炎や肺炎といった重篤な病気を引き起こすことが知られています。これは「日和見感染」と呼ばれます。このように、突発性発疹は、一度かかれば終わり、という単純な病気ではありません。ヘルペスウイルスという、したたかなウイルスファミリーの一員として、私たちの体と生涯にわたる付き合いを続けていく、という側面を持っているのです。