冷房病が重症化すると、その症状は単なる体の不調にとどまらず、自律神経失調症と非常によく似た、あるいは自律神経失調症そのものを引き起こしている状態になることがあります。自律神経は、私たちの意思とは関係なく、呼吸、体温、血圧、消化、代謝といった生命維持に必要な機能を自動的にコントロールしている神経系です。この自律神経には、活動モードの時に働く「交感神経」と、リラックスモードの時に働く「副交感神経」があり、これらがバランスを取りながら体の機能を調節しています。しかし、冷房の効いた涼しい室内と暑い屋外との急激な温度差に繰り返しさらされると、体温調節のために自律神経が過剰に働き、そのバランスが大きく崩れてしまいます。特に、冷えは交感神経を刺激し、血管を収縮させ、筋肉を緊張させます。この状態が長く続くと、血行不良や免疫力の低下を招くだけでなく、副交感神経の働きも低下し、胃腸の不調や睡眠障害、精神的な不安定さなどを引き起こします。これが、冷房病が重症化し、自律神経失調症のような多彩な症状が現れるメカニズムです。重症化した冷房病では、頭痛、めまい、立ちくらみ、動悸、息切れ、吐き気、食欲不振、下痢、便秘といった身体症状に加え、不眠、不安感、イライラ、気分の落ち込み、集中力の低下、記憶力の低下といった精神症状も顕著になることがあります。また、肩こりや腰痛、手足のしびれ、関節痛といった運動器系の症状や、生理不順、頻尿、多汗または無汗といった症状が現れることもあります。これらの症状は、検査をしても特定の臓器に明らかな異常が見つからないことが多く、それゆえに「気のせいだ」と片付けられてしまうことも少なくありません。しかし、本人は非常につらい思いをしています。重症の冷房病、あるいは自律神経失調症が疑われる場合は、内科や心療内科、神経内科などを受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。