地域の健康を守る第一線の医師として、患者さんにぜひ知っておいていただきたいのは、診療所と病院は上下の関係ではなく、役割が異なるパートナーであるということです。私たち診療所の医師は、いわば健康の門番であり、患者さんの日常生活や家族構成、仕事の環境まで含めた背景を理解した上で診療を行います。それに対し、病院の医師は特定の臓器や疾患のスペシャリストであり、高度な技術で問題を解決する役割を担っています。インタビューの中でよくお話しするのは、急な症状の際にどちらを選ぶべきかという点です。例えば、38度程度の発熱や喉の痛み、腹痛といった症状であれば、まずは診療所へ来てください。私たちは全身を診て、それが単なる風邪なのか、それとも背後に重大な内臓疾患が隠れているのかを、経験と迅速な検査で判断します。もし、その場で脳出血や心筋梗塞のような一刻を争う事態だと判断すれば、即座に救急病院へ繋ぎます。このスピード感ある判断こそが、診療所の真骨頂です。逆に、病院へ行くべきなのは、すでに診断がついている難病の治療や、全身麻酔を必要とする手術、そして1週間以上の安静が必要な入院治療です。また、診療所に通っていて「いつまでも良くならない」と感じた際も、遠慮せずに紹介状を依頼してください。私たちは自分の手に負えないと判断した際、どの病院のどの先生がその分野に強いかを熟知しています。適切な医師を指名して紹介できるのも、地域医療のネットワークがあるからこそです。また、最近ではオンライン診療を導入する診療所も増えており、忙しい現役世代の方は診療所をより活用しやすくなっています。病院は、いわば戦場における要塞のような場所で、非常に高度な装備を持っていますが、その分、維持には多大なコストと人手がかかります。軽症の患者さんが病院を占拠してしまうと、本当に命を救わなければならない重症患者への対応が遅れてしまいます。これを防ぐためにも、市民の皆さんに「まずは診療所、いざという時は病院」という意識を持っていただくことが、日本の医療崩壊を防ぐことにも繋がります。診察室での1対1の対話を大切にする診療所と、チーム医療で難局を乗り切る病院。この2つの機能を賢く使い分けることが、健康で長生きするための最大の秘訣です。
地域の医師が語る診療所と病院の使い分け術