熱中症の疑いがある人に対して、良かれと思って行った応急手当が、実は症状を悪化させたり、危険な状態を招いたりすることがあります。正しい知識を持ち、やってはいけないことを理解しておくことが重要です。まず、意識がない、あるいは呼びかけに反応が鈍い人に、無理に水分を飲ませようとすることです。意識がはっきりしていない状態で水分を飲ませると、誤嚥して気管に入り、窒息したり、肺炎を引き起こしたりする危険性があります。水分補給は、意識がはっきりしていて、自分で飲める状態の場合に限り、少量ずつ行いましょう。次に、自己判断で解熱剤を使用することです。熱中症による体温上昇は、感染症による発熱とはメカニズムが異なります。体内に熱がこもっている状態なので、解熱剤を服用しても効果は期待できず、むしろ肝臓や腎臓に負担をかける可能性があります。体温を下げるには、体を物理的に冷やすことが最も重要です。また、寒いからといって、体を温めようとすることです。熱中症は体温が異常に上昇している状態なので、さらに温めるのは逆効果です。涼しい場所へ移動し、衣服を緩め、体を冷やすことが基本です。ただし、体を冷やしすぎることにも注意が必要です。特に、冷たい水風呂に長時間入れたりすると、体の表面だけが急激に冷え、震えが起こって逆に体温が上昇したり、心臓に負担をかけたりすることがあります。冷却は、首筋や脇の下、足の付け根などを重点的に、徐々に行うのが望ましいです。そして、最も重要なのは、重症のサイン(意識障害、けいれん、高体温など)が見られるにもかかわらず、医療機関への搬送をためらったり、自己判断で様子を見続けたりすることです。熱中症は、急速に症状が悪化し、命に関わることもある病気です。応急手当は、あくまで医療機関での治療が始まるまでのつなぎであり、重症の場合は一刻も早い専門的な治療が必要です。正しい知識と判断で、適切な対応を心がけましょう。